米国の株価も下がっているが、日本の株価も下がる一方である。ニュースや新聞も「株価下落、円高で日本の経済は大変だ~」である。マスコミには、もう少し落ち着いた報道が出来ないのかと、いつも疑問に思う。それはさておき、株価が下がることはそんなに大変なことなのか?「株価が下がる」の意味について考えたい。
これはその主体によって影響が異なり、その影響が波及するメカニズムもまた異なるため、3つの主体に分けて考えたい。
①国民、生活者、消費者(個人)
国民の中でも、株式を直接保有している人と保有していない人の2通りがある。株式を保有している人(投資信託などへの投資も含む)にとって、株価が下がることは、自らの資産の減少を意味するため、消費意欲の減退につながる。そのことによって、日本経済に対して悪影響を与える。
もう一方の保有していない人はどうか?日本の国民の場合、株式を直接保有している人は増加したとはいえ、過半数の国民は直接的に株式を保有していないであろう。従って、この人たちにとって、株価下落はニュースや報道を見て、「大変だ!」という気持ちになるだけで、資産価値については、直接の影響はない。もちろん、生命保険への加入や、銀行への預金などの資金は、金融機関を通じて株式にも投資されているため、間接的には株式を保有しているといえる。しかしながら、それらの間接的な保有は、例えば生命保険会社の運用益の悪化による分配金の低下や、収益悪化による生命保険の保険料の値上がりなど、個人に対して大きな影響を与えるとは言いがたいものである。それよりもむしろ、株価が下がることによって、企業の資金調達環境が悪化することで、必要な投資ができなくなり、設備投資が減少することによって雇用が減少したり、株価下落によって保有株式に損失が発生したため、業績の悪化した企業が雇用を減少させたり、給与の減額をしたりすることによって受ける影響が、より大きいものとなる。
加えて、株価の停滞が長期にわたった場合、海外から日本へ流入した資金が引き揚げられ、同時に不動産への投資についても関連して引き揚げられることで、不動産価格が下落し、それが不動産を保有する国民の資産価値の下落を招き、消費意欲が減退するというメカニズムも考えられる。
②企業(法人)
第一に、株価の下落は資金調達環境の悪化を意味するため、企業は必要資金を調達することが困難となり、設備投資が減少する。設備投資の減少は、そのもの自体が経済への悪影響を与えることに加え、経済学的には、供給が増加しないため、需要も増加しないことになる。結局は経済を停滞に向かわせる。株価の下落は企業の信用力の低下につながるため、銀行借り入れの困難性も増すことになる。
第二に、日本企業は金融機関や企業グループ内、取引関係において株式の持合いを続けている。株価の下落はこの保有株式の損失の発生となるため、企業業績を悪化させる。企業業績が悪化するため、企業は持ち合い株式の売却に動くため、その株式を発行している企業にとっては安定株主が減少することにつながり、安定経営が脅かされる可能性もある。株価が下がることで大きな資産減少効果を受けるのが銀行である。銀行は株式に損失が発生するため業績が悪化し、自己資本が毀損する。自己資本比率の向上を図るため、リスク資産の減少へ向かい、いわゆる貸し渋りや貸し剥がしなどの行動に出る。従って、株価下落はデット・ファイナンスに対しても影響を与える。
第三に、株価下落により企業価値が減少することは、その企業を買いたい会社にとっては、安く買える格好の機会となる。そのため、株価が下落した企業にとっては、敵対的買収の危険度が上昇することになる。
③国家、国
低調な株価の持続は、海外資金の流入を妨げる。海外資金の流入が減少すれば、株式の商いが減少し、さらに株価の低下を招くことになる。海外資金の流入が減少すれば、それだけ国内の資金量が減るため、経済へ負の影響を与える。
株価の下落は日本企業に対する、ひいては日本という国に対する先行きの悲観論へとつながり、日本の将来への不安が日本という国の価値の低下を意味し、通貨価値の下落、つまり円安に向かう、と連想してしまうが、現在起きていることは、株価の下落と円高の同時進行である。この場合、先に円高があって、そのことが輸出関連企業の業績悪化につながるため、輸出企業の多い日本の株価が下がる、とのストーリーを連想できるが、今回は株安が先である。即ち、株安の状態における円高がさらに株安につながっているのであるが、市場のメカニズムはなんとも複雑である・・・。
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