大卒者と高卒者の就職における選択肢

 2008年以降の不景気拡大により、高校生や大学生の就職環境は非常に厳しいものになっているようである。バブル崩壊後の就職氷河期と呼ばれた時代もあったが、今回の就職難はそのときよりもひどい状態であると言われている。企業収益が改善した2005年頃の状況とは雲泥の差である。

 

 ところで最近の大学進学率は、男性55%、女性も短大を含めて55%と進学率はすこぶる高くなっている。私は1971年3月生まれであるが、私が卒業した1989年頃においては概ね1/3の進学率である。最近は大学以外にも専門学校への進学も多く、高卒で就職するのは2割に満たない。過半数の進学率となると、義務教育の延長線上に近く、一昔前の「勉強のできる人」や「賢い人」がいくイメージはほとんどない。

 

 出生数は1971~1974年が団塊ジュニアのピークであり、毎年200万人を超えていたが、その後年々減少し、2011年で18歳になる者は概ね1993年生まれ、119万人が対象となる。ピークの6割である。2009年の出生数は107万人であり、将来さらに生徒は減少する。ところが、大学数は、1990年の507校から2008年の765校へ増加している。1990年時点で出生数は122万人となっており、この先、生徒数が減少するのが分かっていたはずであるが、増加しているのである。市場が縮小する中での、市場参入であり、おおいにベンチャー精神あふれる行動である。

 

 ここで疑問であるが、なぜ多くの人が大学に進学するのか?である。理由は色々考えられるが、以下のものを考えてみた。

 

①勉強が好きだから、大学でやりたいことがある、又は進みたい職業を決めているから
②良い会社に、良い条件で就職したいから
③4年間で社会勉強やサークル活動など自分自身を高めたいから
④親が行けと言うから、又はみんな行くから

 

 ①は少数派であろう。高校卒業時に明確に進路を決めている人は少なく、自分に何が向いているのか、何をしたいのか、が分からない者がほとんどだからだからである。いわゆる日本の暗記勉強が好きな人も多いとは思えない。②は少なからず、多くの者、そして親が認識していることであろう。③は明確に意識されるというよりも、大学に進学するための、後づけの追加理由にあげられる程度のものである。私は、④が最も多いと推測する。なぜなら、①のように真剣に頭を使って考える必要もなく、周りに流されることは精神的に楽だからである。

 

 大学進学の真の動機はさておき、大卒資格を得ることで、就職について有利になることは明白である。高校卒業と大学卒業では、就職の選択肢がまったく異なるし、その与えられるステージも大きく異なる。詳しくは、「卒業生の進路」という資料を見てもらいたい(ファイルはトレンド・トピックスに掲載)。例えば、職業別の進路において、高卒者は約半数が「生産工程・労務作業者」であるのに対し、大卒者は1%に満たない。特に高卒男子は約2/3が「生産工程・労務作業者」である。そして産業別に見ると、高卒者の44%が製造業、若者が憧れる情報通信業はたったの1%、硬い職業のイメージである金融業・保険業も1%しかない。また同じ金融業でも、高卒者と大卒者において仕事の内容が異なることが想像できる。例えば、高卒者の就職する建設業は地元の下請企業が多く、大卒者の就職するそれは大手ゼネコンであろう。このように職業、産業で見ると、高卒者の選択できる範囲は限定されており、大きく偏りがある。誤解を恐れずに言えば、高卒者の就職環境には、大卒者に比べて「夢がない」のである。

 

 ではなぜ、企業は大卒者を優遇するのか?大手企業は製造現場を除き、大卒者限定の採用であるし、中小企業には大卒者が入社すれば「幹部候補」などと呼び優遇する例は多い。それほどまでに、高卒者と大卒者の能力格差は存在するのか?私も多くの大卒者や高卒者と触れ合ってきたが、そのような能力格差があるとは到底思えない。ビジネスの能力は学歴ではなく、その人自身のやる気や向上心にかかっているはずである。それらが、大卒者がより多く持っているとも思えない。4年間にわたり、専門的なことを勉強しているが、すっかり忘れているか、実務に応用できない場合が多いのではないか?

 

 もちろん採用する方からすれば、18歳よりも22歳の方が、それだけ年齢を重ねているため、社会常識を多く身につけているため、教育が楽である側面はあろう。10代後半、20代前半は人格形成や職業意識において、非常に重要な時期であり、その4年間の違いは大きい。しかしそれらは、大学に行かなくても入手できるものである。例えば、高校卒業後、企業で4年間勤めた者と大卒者は同じ22歳だとしよう。この2人の職業、企業の選択肢はどちらが多いか?現実的には後者なのである。加えて言えば、高校、大学における教育が企業の望むものと大きくかけ離れていることは問題である。

 

 それでは、大卒者がそれらの有利な就職条件を獲得するために支払うコストはいくらになるのか?これは、公立か私立か、自宅から通うのか下宿か、によっても大きく異なるが、簡単に計算してみた。

 

①大学費用=100万円(入学関連費用)+5万円(月額授業料)×48ヶ月=340万円
②生活コスト=6万円(家賃、生活費等)×48ヶ月=288万円
③就職回避の機会損失=250万円/年×4年=1000万円
340万+288万+1000万=1628万円

 

 合計がいくらになるかは各人によって異なるであろうが、概ね1500~2000万円程度のコストがかかると推測する。これによって得られる対価は高いのか、それとも低いのか?「大学で学ぶもの+大学卒業で得られる就職選択の拡大」にそれだけの価値があるのか?また国家として考えても、有能な人材を質が高いとはいえない大学教育に取られ、コスト対効果の薄い期間を過ごさせることが真に有益か?全く異なるコンセプトの教育が必要であり、ビジネスチャンスにもつながる。規制の多い業界であるが、新しいビジネス、日本が求める教育の形を提供するビジネスを考えたいものである。

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コメント: 2
  • #1

    マスカラ (木曜日, 12 9月 2013 20:06)

    私も、そう思います。
    中卒でも、中学レベルの基礎学力があれば、
    入社後の努力次第で、大きく成長します。
    企業側の大卒をとる理由は、無難、見栄をはりたい、といったものでしょう。
    無難さなら、前科歴がないか、仕事に必要な専門知識のペーパーテストの点数、面接で最低限の受け答えができるかで、十分です。
    ですから、本当の理由は、見栄をはりたい、偏見などの理由でしょう。
    いわゆる文系の仕事は、学歴・学力より、中卒レベルの学力&仕事に必要な専門知識&コミュ力の方が、重要です。

  • #2

    Toru Nishikaze (木曜日, 12 9月 2013 22:13)

    マスカラさん、コメントありがとうございます。

    もちろん学力が重要ではない、とは言えませんが、大学卒業=学力高い、ではありませんし、中学卒業=仕事できない、では決してありません。
    高卒者や中卒者が活躍できる場が限定されていることが問題なわけです。
    企業の規定で入社条件が「大学卒業」というのは、愚かなことだと思いますよね。

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