企業の生産活動の海外移転

 企業の生産活動の海外移転が加速している。日産や三菱自動車は海外生産したものを日本へ逆輸入して販売する計画が発表されている。最近の円高により企業の為替リスクが増大しており、このことも企業の海外生産への動機につながるであろうが、生産地の海外移転は構造的なメガトレンドと言える。

 

 企業が生産地を海外移転する大きな動機はコスト削減である。日本の生産地としての魅力は低下している一方で、アジアをはじめとした新興国においては人件費の安さだけではなく、活発な企業誘致や優遇策を取っている。ではなぜ、企業は今、抜本的なコスト削減に迫られているのか?これは企業の競争の構図が変化しているからである。

 

(第1フェーズ)先進国企業 VS 先進国企業  市場:先進国
(第2フェーズ)先進国企業 VS 新興国企業  市場:先進国
(第3フェーズ)先進国企業 VS 新興国企業  市場:新興国

 

 上記の第1フェーズと第2フェーズは市場が先進国である。新興国に比して所得の高い先進国のニーズは高品質の製品であり、価格は先進国で生産するレベルである。第2フェーズにおいて、新興国企業が低価格モデルで市場参入を果たすが、短期間で大きなシェアを取ることは難しい。競争の構図が大きく変わるのは第3フェーズの市場が経済成長を続ける新興国になるときである。新興国の消費者は高品質の製品を求めていない。普及期前後であれば、安い汎用品(低級品)のニーズがボリューム層を構成している。そこでは地元企業のコスト競争力が高い。市場が小さい時期においては、先進国企業もそれに追随しないが、市場が拡大してくると看過できなくなる。そしてボリューム市場に参入するために、抜本的なコスト削減が必要になってくる。その象徴的な動きが自国ではない、コストの安い国における生産である。

 

 例えば、自動車産業ではこうである。新興国の自動車産業においては、初期に外資メーカーが生産地や販売先として参入する。次第に自動車の販売が増加していくが、購入できるのは一握りの富裕層だけである。新興国のローカルメーカーは最低限の技術力を付け、低価格車を市場に投入する。自動車産業は周辺産業も含め、多くの雇用を生むため、国の全面的なバックアップが取られやすい。補助金や税金低減、他国に対する関税などである。これらにより市場が拡大し、将来的な潜在力の増大が見込まれてくれば、既に参入している外資メーカーや未参入メーカーはそれらを看過できなくなってくる。ローカルメーカーの低価格品に引っ張られて、低級モデルの価格は引き下がる。一部中級モデルも低級モデルとの価格差の縮小の動きが取られる。外資メーカーは売れる販売価格を設定し、それに合わせたコストへ近づけていく。生産に関するコストの大きなものは人件費や鉄鋼を含めた部品費である。それは人件費の安い国への工場立地、生産拡大を促し、部品はグローバル調達に向かう。自動車産業のような問題をどの業界も抱えており、生産の海外立地と部品のグローバル調達は製造業、とりわけ組立メーカーにとっての必要不可欠なトレンドとなっている。

 

 現在は競争の場がアジアを中心とした新興国に移っているのである。それを促したのがリーマン・ショックである。リーマン・ショックにより、欧米市場の経済成長の鈍化、そしてその状態の長期化の見込み、それに対して国内経済市場の拡大により立ち直りの早かったアジア市場に先進国企業がなだれ込んでいるのである。アジアは中国、インドを中心とした莫大な人口を抱えている。これに所得の増加が続けば、すぐに欧米市場に匹敵するポテンシャルを持つ市場に化けるのである。

 

 さて日本である。高コストとして思い浮かぶのが人件費、社会保障費負担、税金であろう。人件費については、派遣法改正により派遣社員が使えなくなるため、さらにコスト高を招く。将来的に考えても、少子化による人口減少は当然に労働力人口の減少を招くため、労働コストは上昇する。加えて、高齢化により企業が負担する社会保障費もまだまだ増加する。税金については、40%の実効税率は他の先進国やアジア新興国と比べて高い。税率の高い国で利益を計上することは、他国の企業と比べてそれだけでも不利になる。そして、鉄鋼は中国をはじめとした海外メーカーの競争力が高く、輸入する場合、輸送コストが割高となってしまう。鉄鋼、汎用部品、鉱物資源を輸入している日本においては、できるだけそれらの資源の近くに立地することが有利になるのである。

 

 今後、日本市場が縮小する中で、企業が国内生産を続けるメリットはさらに低下する。一部の高品質な製品は残ることを期待したいが、それも分からないのである。しかしそれにより、日本が積み上げてきた技術力を喪失してしまうことはなんとしても避けなければならない。それは私たち1人1人が考えていく問題であり、政治に期待してはいけないのである。

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