薄型テレビの超低価格化

 とにかく薄型テレビが安い!エコポイントの制度変更に伴う駆け込み需要が年末商戦の前に盛り上がっている。私も数店舗を訪れてみた。郊外のヤマダ電機、大阪ミナミのビッグカメラ、どちらも大混雑であった。ビッグカメラは平日の3時頃であったが、客待ちが十数人である。

 それもそのはず、32型の大手メーカー品が46,800円、エコポイントによる12,000点を単純に割り引くと実勢価格34,800円である。4~5年前は薄型テレビ1インチ=1万円と言われていたが、もはや1インチ=2千円にも満たない。ブラウン管テレビでも15年前は26型で15万円前後だったと記憶している。薄型テレビの製造原価、広告宣伝費、物流費、家電量販店に支払うリベート、その他の営業費用などを考えると家電メーカーに大きな利益があるとも推測しにくい。なぜこれほどまでに価格が下がったのか?

 

 第1に考えるのが、家電メーカー間のグローバル競争の影響である。薄型テレビの製造原価の半分以上はパネルの価格である。このパネルについては、韓国、台湾メーカーが約8割のシェアを占めている。当然、シェアの低い日本メーカーのパネル価格は、シェアの高い韓国、台湾メーカーの価格に引っ張られ、価格は下落に向かう。

 

 加えて、パネルの量産ラインには数百~数千億円の投資が必要といわれており、パネルの自社生産から外部調達に切り替えているメーカーも多い。また自社向けの製造だけでは、量産効果が不足するため、パネル製造をしている家電メーカーは積極的にパネルを他社へ供給している。このことは、投資リスク回避や量産効果による原価低減、それに加えてパネル製造会社間の競争を促し、パネルの低価格化へ向かうと考える。

 

 第2には、家電メーカー間の競争がある。パナソニック、ソニー、シャープ、東芝、三菱電機、日立といった日本が誇る電機メーカーはすべて薄型テレビ市場で激しいシェア争いをしている。これらのメーカーの製品は、一部のマニア層を除いて、基本機能に変わりはなく、結局は価格競争に向かう。そして低価格を武器にした韓国や台湾メーカーの日本市場への参入は、低価格化を促進させる。一時、話題になったGMS(イオン、イトーヨーカドー、西友などの業態)のPBとしての低価格薄型テレビもこれに含まれる。

 

 家電量販店間の激しい競争が第3の要因である。ヤマダ、ヨドバシ、ビッグ、エディオン、ケーズなど小売競争は激化する一方である。郊外、都市部に現在のように多くの家電量販店があれば、小売店の優位性は低価格に向かってしまう。さらに価格comを見れば、ネット上で最安値の店舗が表示されることもあり、消費者が安い店舗を見つけることは容易である。小売店側も知恵をしぼって、高品質な商品の販売を図るが、それらの高品質商品さえ、すぐに価格は下落してしまう。

 

 家電量販店が現在ほどに存在感がない30年前であれば、各大手メーカーは系列販売店として町の電気屋さんを組織化し、価格に対するコントロールが可能であった。特に同じメーカーの同商品での価格競争はなく、近隣立地の優位性や顔なじみ、豊富な製品知識で売込みが可能だったわけである。しかしながら、そのような販路は消滅し、主導権はメーカーから小売に変わっている。メーカーの売上は家電量販店の態度に大きな影響を受ける。小売店の店頭で自社の製品を目立つ場所にたくさん配置してもらい、販売員に自社製品を勧めて貰わなければ売れないのである。だから構造的に、リベートや従業員の店舗への派遣といった小売店への協力が行われやすい。

 

 メーカーの小売店への人員派遣は、メーカーにとっては小売店で自社製品の説明や推奨販売を行う機会を提供し、小売店側は専門人材の調達を低コストで行うことができるため、双方にメリットがある。家電量販店は、価格競争力とともに、商品知識が重要であり、従業員教育にはお金と時間がかかるからである。これらは家電量販店に優越的地位の濫用を発生させやすく、数年前から問題視されている。

 

 いずれにせよ利益なき繁盛に近い上、結局は年末商戦需要の先食いが相当程度あると考える。もちろん、薄型テレビの低価格化は、1人1台に向かう需要を生み出したと言え、消費者にとっては良いことである。しかし消費者=労働者であり、繁盛しても利益を取れない世界を身近に感じてしまう。日本のものづくりが高い技術を持続していくためには、なにより利益が必要なのである。

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