右向け左!

 今日のヤフーニュースで「武田薬品の2013年春からの新卒採用の基準として、TOEIC730点が義務化」との記事を読んだ。楽天は数年後に英語を社内公用語にするなど、この手の話題は最近多くなっている。企業にとっていかに海外ビジネスが重要になっているかを示すものであり、興味深い。しかしここで、「いや~日本人もこれから大変だね~」では事業家を目指す者としては情けない。

 まず武田薬品について、TOEICで730点を取る人とはどんな人か?武田薬品は大卒採用中心であろうから、まずは大卒である。日本の英語の暗記教育でTOEIC730点はハードルが高い。大卒時点で730点を取れる人を想像すると、海外留学していた、子供の頃から英語教室に通っていた、海外に住んでいた経験がある、外国人の友人がいる、などが浮かぶ。いずれも、やや金持ちが有利といえそうである。もちろん、英語能力は個人のビジネススキルの測定指標ではあるが、それを満たさないからといって、個人のビジネススキルがTOEIC730点ホルダーに劣るとは必ずしもいえない。単一指標によって採用人材をふるいにかけることは、企業の人材バランスを偏ったものにするようにも思える。企業の海外展開が必須であり、英語を話せる人材が必要なのは分かるが、それを全員ができる必要があるのか?会社は役割分担で成り立っている。当然に企業の考え方があるため、どれが正しいとも断言はできない。海外に出て行くための気構えが、現在の日本人に足りないことは正であろう。

 

 しかし、ビジネススキルには様々な要素があり、それらを含めた総合指標の観点もなお必要であると考える。例えば、こんな話がよくある。「うちももっと営業力を強化しないとね~」、「うちの営業は製品のことを知らないから駄目だね~」といったもの。営業力の強化って具体的には何?営業に必要なものは製品知識だけ?私が働いているのは機械部品の商社であるが、会社の営業力の強化と私が聞いた場合、以下のようなことを考える。

 

①顧客を見つける力
既存顧客からの紹介、メーカーからの紹介、知人からの紹介、会社リスト・名簿、HPなど
②顧客にコンタクトできる力
看板、知名度、紹介、個人の力など
③顧客に適合した製品を案内できる力
情報理解力・洞察力、取引先・品揃えのバラエティ、強みのあるピカイチ製品、ターゲットの絞込み、機械知識など
④顧客とコミュニケーションできる力(伝える力と引き出す力)
パーソナリティ、バックボーン、心の力、論理構成力、話術、聞く力、対人理解力、豊富な話題力、人への興味、好奇心など
⑤商談を進め、まとめ、クロージングする力、それを維持・拡大する力
情熱、本気度、自分を売る力など

 

 これらすべてを強化することは、一度にはできない。今、苦戦していて、アウトプットを大きくできない原因はどれか?そして、そのうち、短期、長期、効果の大きさ、小ささを考慮して、手を打つべき要素はどれか?そしてそれは具体的にどうやることが強化につながるのか?「営業力の強化」をときほぐし、そして真因に迫り、それを解決するための方法を考える思考手順がないと、結局は掛け声だけで何も変わらない。

 

 個人の営業力についても、それを構成する要素は製品知識、話術(話し方、話題の引き出し、物腰、スピード、的確性)、雰囲気、しぐさ、容姿、提案力、気配り、約束を守る力などがある。業界によってこれらのウェイトが変わるが、製品知識が100%の業界は多くはない。いくら会社対会社や会社対個人のビジネスの場ではあっても、結局は人対人であるため、顧客側が聞く気にならないといくら製品知識があっても無駄である。逆に製品知識は豊富であるが売れない営業マンはたくさんいる。そのような人は、それ以上の製品知識は不要であり、むしろ他の要素を強化することが営業力強化につながる可能性が高いといえるだろう。

 

 話がかなりそれたが、ニュースや新聞、会社において、当たり前のように使われている、当たり前のワードを、なんでもかんでも一緒くたに考えていては何も見えてこない。それって何?からすべては始まる。正しそうにみんなが使っている言葉は、実はみんなよく分かっていない場合が多い。強そうに見える言葉に、惑わされないようにしたいものである。

Hey Visitor!