サマータイム

 震災による東京電力のキャパシティの減少に伴い、再度サマータイムが注目されている。大手企業を中心にサマータイムを取り入れる発表があったり、国全体としてのサマータイム実施の検討を促す意見もあるようだ。「サマータイム」と聞くと、太陽が明るいうちの活動量が増加し、暗いうちの活動量が減少するため、なんとなく「省エネ」効果がありそうだと、多くの人が感じるであろう。今回は、サマータイムの省エネ効果を独自の視点で考えてみたい。

 サマータイムとは、現行使用している時間に1時間加えることが典型的な方法である。夏の日照時間の長さを利用する。現在の朝7時は8時になる。よって今7時起床の人は、1時間早く現在の6時に起床することになり、逆に就寝時間は、例えば23時が22時になる。1時間早く起きて、その分早く寝ることで、本当に省エネ効果があるのか?もちろん、「ある」のか「ない」のか?と問われれば「ある」かもしれないが、それがどの程度か?を知ることが必要である。

 

 サマータイムは日照時間の利用拡大により、省エネに結びつけるのであるから、省エネになるのは照明と、気温の変化により消費電力量の変わるエアコンが代表となる。

 

 検証する切り口はたくさんあるが、まず実態に即したものとして考えてみた。電力を消費する主体を、工場、オフィス(店舗含む)、一般家庭と簡単に分けてみる。それぞれについて、考えてみたい。

 

(1)工場
 1時間早い稼動や遅い稼動は消費電力量に影響を与えない。機械と照明に分けて考える。まず機械の消費電力量は、同じであることは自明である。そして、照明について、工場内はいくら外が明るくても、照明をつけないで仕事をすることは困難である。なぜなら、窓が多くなく、また内部の敷地が広いため、太陽が差し込むスペースは極めて小さいからである。もちろん、使用電力のピーク時間を変えることにより、全体の停電リスクの減少には資するが、それは操業時間帯の問題であり、国がサマータイムを実施しても関係がない。もちろん工場内は温度が高いため、エアコンや他の空調設備の消費電力量も変化しない。

 

(2)オフィス(店舗を含む)
 こちらもまた同じで、いくら明るいうちだったとしても、よほど小さなスペースでない限り、太陽の光を取り込めるスペースは小さい。逆に言えば、小さなオフィスでは効果があることになる。従って、朝の稼働時間が早くなったとしても、照明なしでは仕事ができないため、オフィスの稼働時間数が同じであれば、照明の省エネ効果は少ない。例えば、朝8時~夜7時の11時間と、朝7時~夜6時の11時間では、同じ稼働時間になる。エアコンについても同様であろう。

 

 店舗についても、大きな店舗であればどんな時間帯でも照明を使用する。逆にパパママストアのような小規模店舗においては効果が認められる。余談になるが、スーパーにしてもショッピングセンターにしても、温度上昇や直射日光による商品の傷みを防止するために、太陽の光が入りやすい設計にしているところは少数である。

 

(3)一般家庭
 ここでは一般的な会社員を想定し、起床、帰宅、就寝のそれぞれで考えてみる。下記は昨年の大阪における7月の10、20、31日の時間別の気温データである。

①起床
 起床時間が、例えば7時から6時になるのであれば、照明の消費電力量は関係なさそうである。もともと照明をつけていない時間帯だからである。それどころか、今まで6時に起きていた人が5時になれば、逆に照明が必要になる可能性も否定できない。ではエアコンはどうか?より温度の低い時間に起きて、より温度の低い時間に外出するのであるから、朝の自宅滞在時の摂取気温は減少するため、エアコンの消費は減少する。と思いがちであるが、実際には上記の気温差に見るように、朝の1時間早い程度で大きな気温差は発生しにくい。従って、0.5度程度の気温差では、エアコン消費量に大きな差異は望みにくい。

 

②帰宅
 例えば、21時に帰ってきた人が20時に帰宅する。この時間帯の1時間の差は、朝早くの時間帯よりも、温度差が出やすい。暑いため、エアコン使用量が増える可能性が高い。

 

③就寝
 照明については、サマータイムに関わらず、帰宅から就寝までの活動時間数は同じであるため、消費電力量は変わらない。エアコンについては、24時と23時の気温差はほとんど発生しないため、消費電力量は変化しない。

 

 一般家庭のサマータイムによる省エネ量は、以下のように表現できる。

省エネ量=1時間早く起きることによる省エネ量+1時間早く寝ることによる省エネ量 

 

 結果として、一般家庭においては、照明、エアコンともに大きな省エネに結びつかないと推測できる。他に一般家庭で消費電力量の多い家電として、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、炊飯器などが浮かぶ。いずれも、サマータイムによる影響はない。東京電力の推定値によれば、夏季におけるエアコン等の消費電力が全体に占める割合は30~35%である。従って、少々照明の使用時間が減少したとしても、全体に占める割合は極めて低いことが分かる。

 

 上記の切り口には、モレもあるし、無理のある前提もある。重ねて述べるが、企業単位でサマータイムを導入することは、消費電力量の省エネ効果は薄いが、特定電力会社管内(例えば東京電力管内)の最大電力を抑制する効果は高いはずである。

 

 サマータイムには省エネ以外の様々な効果があるため、ここではサマータイムによる省エネについてのみ、効果が薄いと推測しているに過ぎない。そして、省エネは、サマータイムというよく効果の分からない制度に期待するよりも、やはり各人が個別に実行した合計の方が、効果はより高いはずである。

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