円高とは何か?

 市場では円高が進み、メガトレンドとして大きな問題になっている。ところで、円高とは何であろうか?今回は、当たり前に使っている円高という言葉を改めて考えてみたい。

 円高とは、日本の通貨である円の価値が上昇することを指す。簡単な例を出せば、今まで1ドル=100円であったものが、1ドル=80円になることで、日本円はドルに対して価値が上昇したことになる。反対に1ドル=120円になれば、1ドル紙幣をもらうために必要な日本円が増えるため、通貨価値は下落したことになる。

 

 さて、ここで重要なことは、円高とは絶対的なものではなく、相対的なものである、ということである。日本で円高や円安という場合、アメリカドルに対して円高あるいは円安ということになる。アメリカドルは基軸通貨、簡単に言えば世界中の輸出入や金融等の取引で決済に用いられる通貨であるため、他国の通貨と密接な関係がある。

 

 下記は米ドル円、英ポンド円、豪ドル円の為替の2009年~直近までの推移を表している。円は、米ドルに対しては2010年4月以降、一貫して円高傾向に、英ポンドに対しては、2010年は円高傾向に、2011年は4月まで円安傾向に、その後再び円高傾向にある。そして豪ドルは、2010年途中から2011年4月まで円安傾向が続き、その後円高に振れている。通貨によって、その傾向は当然に異なっている。

ドル円推移
ドル円推移
英ポンド円推移
英ポンド円推移
豪ドル円推移
豪ドル円推移

 言うまでもなく、もし日本が鎖国状態にあり、他国との交易が発生しない場合、円高や円安が国内に影響を与えることはない。しかしながら、グローバリゼーションの中に位置づけられる我が国は、国、企業、個人のすべての主体が直接あるいは間接的に大きな影響を受けてしまう。

 

 それぞれの主体の視点において、円高が及ぼす影響を考えてみる。

 

(1)消費者視点
①海外から輸入してる物品(石油、衣料品、食品など)を安く買うことが可能になる
ガソリンや円高還元セールなどが分かりやすい

 

②海外旅行をする場合、従来より割安となる
ホテルの宿泊代や買い物、滞在中に使うお金

 

③外貨貯金をしている場合、日本円としての価値が低下する
100万円(10,000ドル、1ドル=100円)が、80万円(10,000ドル、1ドル=80円)となる

 

(2)企業視点
①輸入している部品や原材料(穀物、野菜、加工食品など)を安く仕入れることができる
これは、調達ルートが同じ企業の場合、条件が変わらないため、収益に貢献するどうかは分からない

 

②輸出競争力の減退
原価700円の製品を10ドルで輸出した場合、従来は1,000円(1ドル=100円)で販売できたものが、800円(1ドル=80円)になるため、利益が目減りする。同じ日本円を獲得するためには、12.5ドルに値上げをする必要があるため、価格競争力が失われ、販売量が当然に減少する

 

③為替価値の上昇から、クロスボーダーM&Aにおいて、相手国企業を割安で購入できる

 

④海外からの株式投資が減少するため、株価が下落する
海外投資家から見た企業の株価が高くなってしまう

 

(3)国視点
①他国にお金を貸す又は支援する場合、より少ない日本円で多くの金額を支援できる

 

②保有するアメリカ国債の価値が日本円に対して目減りする

 

③一般的には輸出が減少し、輸入が増加するため、GDPの低下、税収の減少につながりやすい

 

 円高によってメリットが働く項目も存在するが、日本の場合、比較優位産業である自動車や電機機器、電子部品、機械部品の輸出が減少し、それらの企業の業績が悪化する。企業業績の悪化は、雇用や給与の減少、設備投資の抑制につながる。そして所得の減少により、消費者(=労働者)の消費活動が停滞・縮小する。結果として、国内経済活動が縮小し、企業業績をさらに悪化させることになる。

 

 加えて、生産要素となる労働力、生産機械、原料といったものが国際的に割高となるため、日本の生産地としての魅力が低下する。従って、企業の生産活動が海外へ逃避する。そして国内の生産活動の低下により、GDPが落ち込んでしまう。

 

 またある一面では、企業業績や所得環境の悪化によって税収が減少し、国家の歳入が減少する。そのため、公共投資の削減がさらに進む。長期化すれば、税収の増加を目指して、増税が議論される。消費者心理が冷え込み、さらに国内消費が停滞する。歳入の減少は、国債発行の増加を促し、国民の将来不安を煽る。

 

 といった具合に、日本においては、いき過ぎた円高をスタートに、デメリットがはるかに大きくなる。今回の円高局面は、アメリカによる影響要因が大きいため、しばらく続くことが予想されている。

 

 日本のGDPに対する製造業の割合は低下しているため、さらにサービス産業化を進めて輸出依存度を下げれば、日本の将来の不安は少なくなる、といった議論や意見もあろう。しかしながら、日本のサービス産業の需要源、その着火点は製造業の繁栄である。

 

 製造業の業績好調が、交通量(物流、人の移動)やサービス需要(出張によるホテル需要、メンテナンス、コンサルティング、社員研修)、金融取引(投資による資金需要や決済取引数)を増やし、人事サービス(派遣、人材紹介)、ゴルフ、出張旅行需要、タクシーといった需要をも生み出すのである。流通業や飲食業、サービス業がこれらの需要を大きく生み出すわけではない。

 

 グローバル化が世界中の国々とつながり、お互いに影響を与え合うように、日本国内の産業間の関係によって、経済取引が発生しているのである。産業ごとに独立して存在できているわけではない。だから、日本の製造業の減退はサービス産業の減退を意味し、日本全体を暗雲が覆うことになる。製造業が復活できるための環境作りを第一に、政府は考えるべきである。それらが他の産業に伝播することになる。

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コメント: 3
  • #1

    宮崎 (金曜日, 19 8月 2011 19:22)

     順番がててこですが、こっちが後のコメントです。
     円高の原因の一つとして日本が主要国の中で一人デフレ傾向にある点もあると思います。デフレ傾向から脱却できないのは、国債の利払いを抑え、国債の暴落を防ぐためもあるのでしょう。
     円高についてはまったく同感でやはり製造業が主要産業である日本にとってはマイナスだと思います。
     ただ国債のことを考えると日銀も円高阻止に向けて積極的に動けない(そもそも日銀にその様な役割は想定されていないでしょうのけど)のが、本音なのではないでしょうか?
     そうであるならジレンマでなかなか積極的な金融政策も打ちづらいのでしょう。

     この前財務省に教え子が大勢いる東大で教鞭をとっている租税法の先生の講演を聞きに行ったのですが、どうも財務省の中では「地震があったのに日本はなぜか大丈夫じゃないか」と妙な安心感が蔓延しているようだと話していました。

     結局は財政をスリム化して国債の発行を抑えるしか道はないのだと考えますが、既得権益を手放すのは死ぬほどツライ事だと思いますので難しいんでしょうね。
     長々と厭世的なコメントすんません。

  • #2

    Toru Nishikaze (金曜日, 19 8月 2011 23:33)

    なるほど、そうかもしれませんね。
    為替のメカニズムは解きほぐすのが難しいですが、どの業界も市場縮小、競合激化、アジア新興国企業の低価格製品の流入、消費者の実質所得の停滞など、社会全体のデフレはまだまだ続くのではないでしょうか?原油や食料価格の一時的なインフレは、逆に企業や消費者の負担増加になるだけになっています。

    国債の問題はその通りですよね。問題は財政スリム化を実現させる指導者、政治家を我々が国会に送りこむことが出来るのか?かもしれませんね。

    またご意見お待ちしています。

  • #3

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