なでしこジャパンへの熱狂

 さて今回は、ここ最近気になっていた「なでしこジャパン」について考えてみた。「なでしこジャパン」についての説明は、もちろん不要であろうが、女子サッカーの日本代表チームを指す愛称である。ワールドカップ終盤から現在までの「なでしこジャパン」に対する熱狂ぶりはすさまじい。

・国民栄誉賞の受賞
・リーグ戦の大幅な集客増加(下記参照)
・バラエティー番組やスポーツ番組などTV等メディアへの露出の激増
・企業からのスポンサー依頼やCM出演依頼の激増
・アウディジャパンは同社の小型車「A1」を貸与する(期間は3年間で、22台)
・ソニーから電化製品がプレゼント(パソコン「VAIO」1台、デジタルカメラ「サイバーショット」25台、デジタルビデオカメラ「ハンディカム」1台)

観客動員数
観客動員数

 ワールドカップの準々決勝あたりから俄然、注目を集めだし、準決勝、決勝、その後と、その注目度は国民的関心事に膨れ上がった。しかしながら、このワールドカップが開かれたときに注目していた人は、その1割にも満たないであろう。要は、ワールドカップ前はほとんどの人達は、関心がなかったはずである。

 

 フジテレビが女性アスリートを頻繁に取り上げているなど、その存在自体は薄く広まっていたと考えられる。「聞いたことある」である。それが濃く、さらに広くなっていった期間は約1~2週間であろう。行政団体や国が選手を表彰したり、スポンサー契約やCM出演を依頼する企業の激増、大衆の期待・注目につながった。相変わらずの日本の群集心理というべき現象ではあるが、震災後、社会、政治、経済とまったく良い話題がなかったため、このニュースに救いを求めた感は確かに強い。

 

 しかしながら、突然の人気急上昇、それも熱狂的な急上昇は、下がるときもまた早いことが多い。芸人、ヒット商品、旬の人、企業など、その人気や注目度を維持することは難しい。「ワールドカップ優勝 ⇒ オリンピック予選通過 ⇒ オリンピック優勝」とつながれば、ブームを引き伸ばし、ある一定の人気の安定化にたどり着くことが可能となる。しかしながら、ワールドカップ優勝だけでは、そのブームは時間とともに収束する。なぜなら、それ以上の注目を集める話題の参入余地が広がるからである。

注目度chart
注目度chart

 おおまかに「なでしこジャパン」の注目度を表現してみたのが上記のチャートである。時間の経過を横軸、縦軸は注目度を表す。

 

 まずワールドカップ中に、その注目度は、極めて短期間にA点からB点に向かった。その熱狂はすぐには収まらず、少しづつ下降しながらC点へ向かう。今の状態がまさにそこにある。

 

 しかしある一定時間を経過すると、その注目度は低下する。なぜなら他の話題が登場するからである。現在の注目度以上の注目を集める他の話題が登場する余地は、時間の経過とともに広がる。同じ話題であっても、ワールドカップ終了間もない頃であれば、その注目度において「勝つ」が、時間の経過とともに、同じレベルの話題に「負ける」可能性が出てくる。そして結局D点に向かう。

 

 そしてD点から、E点に向かうのか、F点に向かうのかは分からない。今回の「なでしこジャパン」は、すぐにオリンピック予選があるため、その注目度を持続できる機会を持っている。これは注目度を維持するために、非常に幸運であったといえる。これがなかったのであれば、高い可能性でD点からF点へ向かうと考えられるからである。

 

 ワールドカップ優勝は、彼女たちの生活、環境を激変させた。「なでしこジャパン」のメンバーのちょっとした発言や行動はヤフー・トピックスに毎日登場するし、些細なことも大きく報道される。経済的にも、社会的にも認められたのである。これらのことは、彼女たちの心理状態に大きな影響を与えることは想像に難しくない。町を歩いていても、プレーしていても、家にいるときでさえ、自分はすごい存在になったと認識する。いくら長期間、ストイックに生きてきた彼女たちであっても、人間たるもの慢心やうぬぼれを抱くことは避けられない。

 

 しかしながら彼女たちも、オリンピック予選で惨敗しようものなら、すぐにこの賞賛が罵声に変わることは知っている。長い期間、辛酸をなめてきた、あるいは陽の当たらない環境にいた選手であれば、なおさらそれを感じるはずである。とはいえ、実際にプレーや練習にに集中する時間、サッカーだけを考える時間が少なくなることは間違いない。

 

 人間というのは勝手なもので、いくら旬の話題となっていても、いくら国民を勇気付けたといっても、のど元過ぎればなんとか、なのである。極端な話、半年後に、そういえばそんなことあったよね、で終わってしまう話題も少なくない。オリンピック予選に対する国民の期待という重圧に負けずに、すばらしいプレーをしてもらいたいものである。そして、そのためのサポートは、単に群がることではないのかもしれない。

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