今回は半導体業界について取り上げたい。「半導体」とは?と聞かれると、パソコン、携帯・スマホ、カーナビ、エアコンといった家電製品、通信機器等に使われている電子部品である、といった認識になるであろう。かつて日本の半導体メーカーは国際的に高い競争力を持っていたが、近年、DRAM大手のエルピーダメモリの破綻やシステムLSI大手のルネサスエレクトロニクスの経営再建など厳しいニュースが多い。
SIA(Semiconductor Industry Association:IBM、Intel、TSMC等が加入している業界団体)によれば、世界の半導体の市場規模は約3,000億$(約30兆円)である。使用用途が拡大し、その消費数量が増加しているため市場規模は伸びているが、一方で単価の下落は激しい。
20年前は8割以上を占めていた先進国のシェアは減少の一途をたどり、シェアは半減している。代わってシェアを伸ばしているのは、高いコスト競争力を持つ韓国、台湾勢である。2000年以降の「生産手段のデジタル化」によってシェアは急拡大している。
半導体は小さな部品であるが、広い裾野を持つ産業である。素材となるシリコンの供給、生産の前工程、後工程、検査といった製品に関係するものだけではなく、製造装置や設備部品を供給する企業も多数に上る。株式市場において半導体関連銘柄には多数の企業が該当するが、製造装置を提供する会社として東京エレクトロンや大日本スクリーン製造、アドバンテストなどが有名である。
半導体やFDP(フラットディスプレイパネル)の製造装置の市場は大きく、関連するBBレシオと呼ばれる数値は経済指標として利用されている。BBレシオは、製造装置供給企業の「受注した金額」と「出荷した金額」の関係を表している。
BBレシオ=受注金額(Booking)÷出荷金額(Billing)
1より大きい:多くの受注があるため業績が拡大する
1より小さい:受注残が少ないため業績は悪化する
もちろん半導体の設備投資は最終製品(スマホや家電)の需要から派生するものであるが、半導体の設備投資の増加=半導体メーカーの先行き需要に対する自信、となり、経済の好転を先行的に示すものと言える。
SIAが発表しているBBレシオ及び受注・出荷金額は以下の通りである。工作機械と同様に設備投資の性格上、激しいアップダウンを繰り返しているが、直近数値は1を上回っている。
次に日本国内の日本半導体製造装置協会が発表しているBBレシオは以下の通りである。昨年は総じて1未満であったが、12月から今年の2月までは1以上となっている。半導体受託生産の最大手台湾TSMCが生産能力増強を発表したため、今後は1を大きく上回ると予想される。
半導体の国別シェアで見たように、日本の半導体メーカーは激しい単価の下落によって、今後も東芝等一部メーカーを除き、苦境が続く。従って国内メーカーの設備投資が見込めない中、半導体製造装置の供給企業の業績は、今後も韓国、台湾勢の設備投資の動向に大きく左右される。
半導体業界もまた、生産設備を導入すれば「誰でもつくれる時代」である。日本の高品質・高精度な工作機械がアジアのものづくりレベルを大きく向上させることで、日本の標準的なものづくりの価格を下げたように、日本の高品質な半導体製造装置もまた、日本の標準的な半導体の価格を下落させ、一方でアジアの半導体メーカーの競争力向上に大きく貢献している。
いくら日本企業が素材や生産設備、一部のニッチの分野で優れているとは言っても、最終製品に比べるとボリュームが小さい。そして日本の最終製品メーカーが弱いため、それらの企業(素材、生産設備メーカー)は海外企業への売上割合が大きくなる。それは結局、海外生産を促進し、日本の雇用を減退する方向となる。
このような構造を見る限り、アベノミクスによる経済好転とは一時の気分の高揚によって発生しているものに過ぎないように思えてくる。円安、株価上昇、超金融緩和、TPPといった言葉に踊らされず、状況判断や投資には冷静な分析が肝要である。
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kolczak