ジャンク・ニュースのマス化

 世間ではドラマ「明日ママがいない」についての報道で大変な様子である。全スポンサー撤退、TV局の最後までの放送意向、関連団体の抗議などなど、飽きる気配を見せない。本当に皆さんはこのニュースに興味がありますか?

 一方で、生産ラインに農薬が混入して問題となっているマルハニチロも大変な状態である。犯人は捕まったが、ホールディングス社長が辞任、Yahoo!のトップニュースの見出しは「工場のずさんな実態」である。現場を見たわけではなく、従業員数人にインタビューした結果の記事のようである。これは従業員による犯罪であって、企業の犯罪ではない。企業に管理責任があるにせよ、例えば中小の食品会社について、100%そのリスクを無くすことは不可能である。どんな会社、組織であっても、すべての従業員をロボットのように管理することはできない。

 

 最近のネット・ニュースを見ていると改めてネットの怖さを思い知らされる。一つの話題に日本全員が全力投球のように錯覚してしまう。昨年11月ごろはドラマ「夫のカノジョ」が低視聴率となり、毎日のようにYahoo!ニュースなどにアップされていた。ドラマの主役である若い女優に責任があるかのような報道が連日続き、もはや「つるしあげ」に近い状況に置かれた。ドラマ、政治家の失言、原発政策、製品回収、芸能ネタに至るまで、これらの記事の内容は概ね「くだらない」ものが多い。事実を冷静に伝えるものではなく、特定の者や会社に対する攻撃の要素が強いからである。

 

 しかしながらネット経由のニュースはパソコン、スマホ、ガラケーを通じて、小学生から老人までが共有している。その結果、「ジャンク・ニュースのマス化」が浸透していると私は考える。それは「一般大衆の声の肥大化」につながり、政治家、企業、スポーツ選手、芸能人はジャンク・ニュースに対して、過敏症ともいえる行動を取っている。象徴的な事象が、あくまでフィクションである「明日ママがいない」のスポンサー全8社が撤退、という事実である。スポンサーは、このドラマから一般大衆が受ける悪い印象が企業へ伝染するのを「ビビった」のである。一般大衆が悪い影響を受けているかどうかは、定かではないし、このドラマに対して、社会問題を写しながら真剣に見ている一般大衆がそれほど多いとは思えない。

 

 ネット前の時代、ニュースや新聞は真面目なおっさん、芸能週刊誌はおばはん、スポーツ新聞や写真週刊誌は少し不真面目なおっさん、と棲み分けがされていた。それぞれのターゲットに適したメディアがあり、その話題はターゲットの中で終わっていた。しかしながら、スマホやガラケーを持っているほぼ全国民たちはYahoo!ニュースなどを「何となく」見てしまう。一度見た話題の続報は、さらに気になり見てしまう。そして意識に刷り込まれて、記事に書いてある通りの印象を持つ。全国民共有のジャンク・ニュースが生まれる瞬間である。

出所:自己作成
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 楽天の田中投手のメジャー挑戦か否かに始まり、獲得球団はどこか、契約条件はどうか、に関する記事も毎日掲載された。話題だけを考えれば、日本中が毎日大騒ぎするものではない。しかし、何となく毎日見ている人達は次第に気になり、自分も興味を持っているかのような錯覚をしてしまう。この中にはプロ野球にまったく興味がない人達が半数以上含まれる。例えば、落合が初の1億円プレーヤーになった話題や野茂がメジャーに挑戦したときは、プロ野球ファンだけが興味を持って読んだものである。

 

 ネットは情報の拡散力とスピードにより、今までアクセスできなかった質の高い情報を気軽に入手できるようになった。情報を万人が共有することにより、適正な観点を促し、よりよい判断に結びつく可能性が高まる。さらに一般大衆が色々な情報を知ることで、今まで隠されてきた悪い事象が明るみに出て、社会を良くする場合が増える。

 

 一方で、歪曲化した観点によって、間違った情報、意図されたように加工された情報に対して、多くの人が同調する可能性が高まる。他の情報を持っていないにも関わらず、何となく見れる情報がすべてであるかのように錯覚する。

 

 例えば、原発政策についての記事は悪い例である。原発のことをまったく分からない一般大衆が、原発危ない、怖いだけではまともな議論が成り立たない。「わたし虫が嫌いだから、虫は触れないの!」と同じレベルの話である。一般大衆から選ばれている政治家は、この声に反することを恐れ、声高に原発が必要だ、とは言えない。原発政策は専門分野の人が精査し、国の将来を勘案しながら、国民に必要な情報を提供して、その上で国民の総論として決定されるものであって、一般大衆の限定情報が左右するべきではない。一般大衆は議論に必要な情報を冷静に分析することで判断しなければならない。しかしながら、何となく記事を見ている一般大衆が、そんなめんどくさい作業をするはずがないのも真である。結果として危ない、怖いとしか言えない。白々しい「子供の将来のために!」という大義っぽい理由が叫ばれる。それは真実であるが、それだけが真実ではない。

 

 双方向にコミュニケーションできるとされるネットであるが、韓国や中国の記事に関するコメントを見ている限り、無責任極まりない一方通行のものが多い。思慮がなく、深みをまったく感じない単なる文句あるいは「切れている」だけである。まれに見識深いコメントもあるが、9割以上は無駄なスペースである。

 

 単にネット上でのお遊びですめば良いが、これらが企業の動きを抑制することは問題である。特に消費者向け製品を販売している企業は過敏症になり、思いもよらない代償を払うことになってしまう。簡単なこと、考えなくても良い「歪曲された一片の情報」だけが一人歩きして、企業を攻撃し、自由な活動を抑制する。

 

 ネット以前のように、写真週刊誌のゴシップ記事がおっさんや若者だけの共有であれば、悪影響は少ないが、ジャンク・ニュースのマス化はその拡散パワーにより、社会に負の影響を与える可能性がある。ネット・マスコミが情報をコントロールして、社会の見方を変えてしまうリスクさえ持っている。

 

 一時期、テレビは受動的、ネットは能動的であると言われた。確かにネットは自分に必要な情報を探す、という活動を伴う。しかしながら、テレビを何となく見るのも、Yahoo!ニュースや知恵袋などに含まれるジャンク・ニュース、話題を何となく見るのも、受動的なことには変わりがない。

 

 企業、政治家、個人はネット発の評価がすべてではないという事実を認識し、毅然とした態度を取るためには、歪曲化情報のインパクトを冷静に分析する必要に迫られている。ジャンク・ニュースの視聴者は、歪曲化情報に対する同調が「ネットの奴隷」を意味する可能性があることを考える必要があるのかもしれません。

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コメント: 3
  • #1

    三輪 (金曜日, 14 3月 2014 13:42)

    西風さん
    今、デリーにいらっしゃるんですか!?
    お身体に気をつけて下さい。
    飛躍を信じております。

  • #2

    Toru Nishikaze (土曜日, 15 3月 2014 02:25)

    三輪さん
    コメントありがとうございます。
    三輪さんは本名なのでしょうか?
    よろしければ、「問い合わせ」からメールでも下さいませ。

  • #3

    Hi (日曜日, 21 2月 2021 15:51)

    Nice

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