Tips for parts procurement
In this page, provide many tips about how small and medium manufacturing enterprise reduces the cost of parts procurement, involving structure of distribution and business practices in
Japan.
このコーナーでは、中小製造業がいかにして部品調達コストの削減を図っていくか?について、その流通構造や商慣習を紐解きながら、ヒントを提供します。
経済のグローバル化は中国、インド、タイ、ベトナム等の新興諸国の経済を大きく成長させる一方、多くの日本企業に厳しい競争環境を作り出しました。最終需要や設備投資の停滞といったモノの売れない状態が長期間にわたる中で、多くの会社は利益を生み出すため、強いコスト削減の圧力を受け続けています。組立メーカーの原価の多くを占める外部から調達する機械部品については、中国製ベアリングなど低価格の海外品の採用が進んでいます。
しかしながら、購買ボリュームで取引先に優位性を持つ超大手企業と異なり、多くの中堅・中小企業は取引先へのコストダウンのお願いや発注ロットの工夫などにより、一時的かつ少ない成果に終わっているのが現状です。資材調達、購買の担当部署も血眼になってコストダウンを推し進めていますが、従来の方法では限界を感じる場合が多いのではないでしょうか。購買量が増えれば交渉力も高まりますが、増えないあるいは減少する購買量では、仕入先もメリットを感じることができず、反対に素材価格の高騰や仕入先の廃業によって値上げを受け容れざる得ない場合もあります。
新しい仕入先の開拓は「言うは易し行うは難し」で、成果が上がるケースは少数派です。これだけ多数の機械部品商社や工具屋があるのに、なぜ仕入先の開拓、資材コストの削減が現実には難しいのでしょうか?
多数の部品メーカーと多くの品目が生み出す天文学的部品数、部品メーカー間の製品の比較困難性、長年の取引実績による固定的取引、そして多くの資材調達部門の方々が苦しむのが、その機械部品の流通構造の複雑性です。機械部品の流通構造は複雑怪奇であり、外部の人には理解しがたい伝統的商慣習と歴史を持っています。従って、まず業界の特長をつかむことなしに効果のある調達コスト削減策を実行することは不可能です。
しかし、この古く、複雑な業界は、部品メーカーや機械部品商社・工具商自身にさえ、定義できていません。逆に言えば、いち早く理解することで効果のある調達コスト削減策を実行できれば、市場におけるコスト競争力が高まり、売上拡大に大きく貢献することが可能になります。一方、コストが高いまま製品を開発し、営業しても、売上は伸びず、利益を得ることは困難です。
私は7年以上、機械部品商社に在籍し、業界の非常識な商習慣に毎日触れて、疑問を感じて仕事をしてきました。以前は異なる業界にいたため、長年の業界人とは違った目でこの業界を捉え、気づいたことを定義し、ノウハウを蓄積してきました。機械部品の流通業界は確かに複雑です。しかしながら、コツは意外に簡単です。資材調達コストを削減し、貴社が利益を得るために、まずは機械部品の流通業界を知りましょう!
機械部品の流通業界を知るために3つのポイントを解説します。
(1)複雑な流通構造
①多数のメーカーが作り出す天文学的製品数
機械は多くのユニットから構成され、それぞれのユニットは多くの部品から成っています。主資材と呼ばれる鉄鋼、ステンレス、樹脂はもちろん、中間財においても、伝動、空油圧、制御、配管などに関する部品、機器と多様です。ここで主題となる伝動部品についても、ベアリング、ボールネジ、チェン、スプロケット、プーリ、ベルト、モーターなど、多くのカテゴリーが存在します。そしてそれぞれのカテゴリーには多数のメーカーがしのぎを削り、多くのラインナップを提供しています。メーカーのカタログは分厚く、多様な商品が掲載されています。結果として、「多数のカテゴリー×多数のメーカー×多数のラインナップ=天文学的製品数」となります。
中間財に加えて、工作機械や工場用品、消耗品を加えたトラスコや日伝などの卸商社が発行するカタログ(「商報」と呼ばれる)だけでも、千ページを超え、掲載商品は数10万に上ります。数10万に及ぶ天文学的な数の製品が流通しているのです。これらの製品が数万~10数万の事業所(最終ユーザー)へ届けられます。その流通を担うのが、数千~数万と言われる機械部品卸・商社、工具商なのです。正確な統計はありませんが、全国機械工具商連合会に加盟しているのは約1,800社、工具商の雄であるトラスコの取引先は5,200社に上ります。
天文学的な製品数が、数万の流通業者を経て、数10万の事業所に届けられるため、その流通ルートは複雑化するのが当然なのです。
②小規模過多の流通業プレイヤー
NSK、THK等の機械部品メーカーや工具メーカーの多くは代理店制度を採用しています。その結果、メーカーと直接取引できる卸・商社(代理店、一次店などと呼ばれるが、以下「代理店」と呼ぶ)は限られた存在です。そして代理店から製品を仕入れる二次店(二次卸の意味)、二次店から製品を仕入れる三次店(三次卸の意味)が構成され、機械部品メーカーと最終ユーザーの間には通常1~3社の商社が介在します。そして天文学的な製品数にも起因しますが、代理店同士の製品の融通、複数の代理店から仕入れる二次店や三次店が混成し、機械部品の流通は多段階かつ強い相互依存関係を持ちます。
機械部品の流通を担う商社はその機能による違いもありますが、非常に多くの会社が存在し、その多くは小規模です。ではなぜ、機械部品商社は小規模かつ多数の存在が許されるのでしょうか?
元々、機械部品商社や工具商は戦中の機械部品の需要増加に伴って創業した会社が多く、概ね1920~30年代創業の老舗企業が多い。それ以前の機械部品や工具は輸入品が多く、最初は輸入商社が直接最終ユーザーに販売していたが、国家的な国産品のレベルアップが図られ、機械部品を作る工場と最終ユーザーをつなぐためにこれらの卸問屋や工具商が介在したと言われている。この頃の商売は地域密着が必然であり、部品メーカー自らが販売するよりも、卸問屋や工具商が販売した方が効率よく流通できたわけである。
現在の代理店の多くは、昭和20~30年代に有力部品メーカー(NSKやバンドー、SMC等)の代理・販売店権を取得しており、独占販売権による一定エリアの割当を受け、小さいながら商売を維持することができたわけである。代理店権は早い者勝ちの権益であり、メーカーは現在の代理店の商圏を侵す可能性のある新しい代理店の増加・追加には消極的であり、新たに機械部品メーカーの代理店になることは非常に難しい。言うなれば、代理店は新規参入が非常に難しい商売なのである。後述するが、部品メーカーにとっても代理店活用にはメリットがあるため、様々な支援を行っている。結局のところ、小規模過多な機械部品商社は一定の権益により温存されるため、流通構造の複雑性は集約化の方向へ進みにくい。このエリアでNSKの商品はM社からしか買えない、という強みが長期間維持されるからである。
ところで機械部品や工具は「売って終わり」ではなく、仕様確認、テスト、設計計算、安定供給、信頼にもとづく低価格、アフターサービスといったサービス機能が重視される製品である。そのため、最終ユーザーは長年の取引実績や使用経験、信用を重視する。そのため、「よそ者商社」とはよほど魅力的な提案がないと取引しない世界である。この最終ユーザーとの相互信頼と伝統的商慣習によって、小規模商社は一定の商売を守り続けることができるのである。
逆説的に見れば、このような構造は流通の固定化を招き、無駄が温存される結果にもなっている。本来ならば、営業力とサービス力のある商社に代理店権を集めることで商流をシンプルにすることは可能であるが、既得権と絡むため、メーカーもドラスティックな改革ができない。部品メーカーがある代理店への支援をやめれば、その代理店は倒産しかねないからである。もちろん代理店は顧客と密着した関係にあるため、そこにメスを入れることは一方で競合他社へのスイッチを招き、部品メーカーの営業所レベルでは困った話になる。同一カテゴリー内に競合メーカーが多いことは、それぞれのメーカーの代理店が存在することになり、各代理店が市場を分け合いながら存続する構造が固定化しているのである。
そして二次店、三次店を飛ばすいわゆる「中抜き」は、機械部品業界では現実的には起きにくい。その二次店、三次店に製品を卸している代理店はもちろん、他の代理店にとっても手を出しにくいのである。なぜなら地域密着ゆえに、その情報は二次店に販売している既存代理店の耳に届き、メーカーとの協力の下、その商売をなんとしても守る方向へ進みやすい。あるいはある卸代理店の二次店が取引しているユーザーに対して、同一メーカーの直需代理店がアプローチするということも、メーカーのユーザー管理によって起こり得ない。ここに無駄が温存される余地が発生してしまう。その機能を効率的に提供できる会社があるにも関わらず、業界慣習が経済合理性に基づく適正化を許さないのである。
③Face to Faceが生み出す品揃えの拡大
最終ユーザーを顧客とする機械部品商社、工具商の営業スタイルは頻繁な顔合わせによる御用聞きが基本である。ユーザー側は顔見知りの営業マンに日々の注文や見積りを気軽に依頼し、機械部品商社の営業マンはその依頼に対応して日々の販売活動を遂行する。お互いの関係は緊密であり、中堅クラスのユーザーであれば、納入業者で組織する協力会を結成し、部長・役員クラスと納入業者間でコミュニケーションを持つことも珍しくない。
例えば機械部品の中で大きな位置を占めるベアリングを供給する商社は、ユーザーに頻繁に接触する機会を持ちやすい。対面接触が増えることで、商社とユーザーの担当者は「顔見知り」になる。そしてメインバンクならぬメイン商社として日頃の接触を通じて、幅広い案件の情報を得ることができるようになる。次第にユーザー側の担当者は、自分で調べるよりも顔見知りのメイン商社の担当者に依頼した方がラクなため、自らの簡便性が重視されてくる。そしてメイン商社は実際に得意ではない製品についても見積りし、受注を獲得できる機会が増えてくる。商社にとって、これらの付加的な売上は魅力であり、品揃えの幅を拡大することのメリットが発生する。営業コストが同じであれば、付加的な売上が多いほど、利益が増えるからである。しかしながら、メイン商社が拡大した製品群は、代理店として部品メーカーから直接取引により仕入れた商品ではなく、卸代理店から仕入れた二次店、三次店としてのものが多くなる。例えば購買頻度が低く、選択肢が膨大である工場用品などは通常、トラスコや日伝といった大手卸から調達する商社が多いのである。結果として、商社が顧客であるユーザーのために拡大する品揃えもまた流通の多段階を促進してしまうのである。
前述したように、機械部品業界は「売って終わり」ではなく、製品の品質保証や当日デリバリー、価格協力など、ユーザーも商社のフルサービスを必要としている。そのため取引実績が長く、関係の深いメイン商社を持ち、多くの製品を調達することは高い利便性を持つ。しかし一方では流通ルートの固定化を招くとともに、商社間の競争を緩やかにする効果を持つ、閉鎖的な競争環境では、情報を持つものがいつも有利になってしまうからである。また同一カテゴリーについて2社の商社と取引がある場合においても、半分をNSK、もう半分をNTNなどと住み分けをユーザーが主導している場合もある。これは複数発注先による競合状態の維持というよりも、取引実績の長い二社に配慮するという、つながりを重視する性格が強い場合がある。
(2)代理店制度
1)部品メーカーにとってのメリット
ほとんどの部品メーカーは代理店制度を採用して自社の製品を広く流通させている。カテゴリーや会社によるが、ベアリングメーカーで50~80社程度の代理店がある。代理店は該当メーカーから直接仕入れができるメリットを持ち、通常一定エリアあるいは特定ユーザーにおいて独占的販売権を持つことができる。代理店以外の商社、工具商、ユーザーは代理店から製品の供給を受けるしかない。従って、NSKやTHK、NOK、SMCといった有名メーカーの代理店は、この独占的販売権に守られることで安定的な売上を継続することが可能になる。
自動車メーカーや電機メーカー等の大手ユーザーを除けば、ほとんどのユーザーは機械部品を代理店から購入することになる。中間流通が介在することでコストが増加するため、部品メーカーのメリットは少ないように思える。もちろん、中小メーカーや後発メーカーの場合、自社の弱い営業基盤を補完する存在として、代理店を置いている。しかし知名度の高い部品メーカーであれば、ユーザーに直接販売することは難しくない。しかし、部品メーカーにとっては流通コストがかかってもなお、代理店制度にはメリットがある。
①営業コストの安さ
これは大企業と中小企業の人件費の格差を狙ったものである。取引数量に劣る中小ユーザーに対して、人件費の高い大企業メーカーの営業人員をあてることは不効率となる。従って、相対的に人件費の安い中小企業代理店を活用することで、対中小企業の取引が可能となる。
②在庫・物流機能
取引数量に劣る中小ユーザーへの製品の生産・発送は小ロットとなるため、大企業メーカーにとって効率が低くなる。これを埋める存在として、代理店がある。つまり代理店に在庫を持たせ、ユーザーへの在庫調整機能を果たすことで大企業メーカーから見た有効性を高めることができる。物流においても、代理店に一括で配送し、代理店からユーザーへ小口物流することで効率を向上することができる。
③貸し倒れリスクの移転
中小ユーザーの倒産による貸し倒れリスクを代理店に移転することを意味する。大企業の与信管理は厳しく、貸倒れには敏感に反応する。加えて、製造業界の支払サイトは4~6ヶ月に及ぶ。代理店からは通常保証金や担保を預かっているため、代理店倒産による部品メーカーの貸し倒れリスクは小さいものとなる。
④営業エリアの深耕
大手メーカーでは難しいローカル市場の開拓が、その地区に詳しい地域密着の代理店を利用することで可能となる。ローカル情報はその地域で長年ビジネスをしている企業が最も詳しいからである。
2)代理店制度の弊害・副産物
一方で代理店制度はユーザーの立場から見れば、制限的競争を生み出す根源となる。代理店制度は、部品メーカーにとっては、地域密着の小規模商社の営業力を活用して自社製品の優先的な販売を促進させる一方、仕入価格や納期、営業面の支援を行う。代理店は部品メーカーの支援を受けながら、自社商圏における独占的販売権の利用により販売し、一定の安定的収益を得ることができる。そして競合にはメーカーと代理店がタッグを組んで戦うことになる。
しかしながら、代理店制度はその枠内において、代理店同士の競争を著しく制限し、価格の崩れを防止する。代理店制度は自由競争とは異なる制限的競争環境を作り出す。
①ユーザー登録
後述するが代理店には直需と卸という二通りの業態が存在する。直需とはユーザーに直接販売する代理店を指し、卸とは商社、工具屋といった中間流通業者に再販売する代理店を指す。再販売した先は二次店や三次店(二次卸、三次卸と同義)と呼ばれる。
通常、量産ユーザーに対しては「特値」と呼ばれる特別価格が提示される。ベアリングで言えば「6200ZZを年1万個」といった条件に対して、メーカーは建値ではなく、「特値」をオファーする。この「特値」はユーザーに対する取引実績、規模、信用力、製品内容、将来性、競合状態等を勘案してメーカーが決定する。代理店はこの特値を適用して、ユーザーに対する納入価格を決定する。
その意味で「特値」は「部品メーカーが代理店に納入する価格」なのであるが、正確には「代理店が特定ユーザーに納入する場合にのみ適用する価格」である。例えば、同じ製品について複数ユーザーに対する特値が存在するのである。簡単に言えば、代理店は同じメーカーの同じ製品について複数の仕入価格が存在する。
例、ベアリングメーカーN社が代理店Z社へ提供する6200ZZの特値
A社向け:100円
B社向け:70円
C社向け:88円
「特値」は代理店に対する価格という性格ではなく、ユーザーに対する価格という性格が強い。そのため「特値」は、必ずユーザー名をオープンにすることが求められる。これが部品メーカーによる「ユーザー登録」と呼ばれる特値設定手続になる。ユーザー名をオープンにしない場合、代理店、二次店、三次店ともに建値での購買になる。
部品メーカーは、最初にユーザー登録をした代理店にのみ、そのユーザー向けの「特値」を提供する。例えば、Aというユーザーに対して、ベアリングメーカーN社が50円という「特値」を代理店Zに出せば、後から代理店YやXがユーザーAに対する特値を申請しても、部品メーカーはYやXに対して特値を提供しない。一度「ユーザー登録」がされれば、その代理店がそのユーザーに対する唯一の流通ルートとなり、同一メーカーの他の代理店が競合することはない。これは二次店、三次店にも認められ、卸代理店⇒二次店⇒三次店⇒ユーザー、という流通ルートだとすると、ユーザーに特値で納入できるのは三次店Cのみであり、メーカーはこのルート外の同一メーカーの直需代理店Dには特値を提供しない。
結局は「先行者利得」となり、代理店間の競争制限を意味する。目的は値崩と代理店間の不毛な競争の防止である。しかし、ここにはユーザーメリットという考え方は存在しない。
②再販売価格の統制
さらに多くのメーカーは、代理店が商社、工具商といった流通業者に販売する場合の再販売価格を統制している。カテゴリーによるが、ベアリングの場合は長らく定価の30%が相場であった。例えば、卸代理店が他の代理店や二次店に再販売する場合、最低、定価の30%以上で販売しなければならない。この制限未満の価格で販売した場合は、部品メーカーから代理店に対して、製品の納入停止等の厳しい措置がとられるため、ほとんどの場合守られる。
これは製品の価格維持、値崩れ防止を目的としている。一方で卸代理店間の競争を制限する。なぜなら、定価の30%と仕入の売買差益は最低利益として保証されるからである。それ以下の価格は存在しないため、競争により商売が奪われる可能性が低くなる。しかもこの慣習は、業界を挙げて実施される場合さえある。以前カルテルが問題になったベアリング業界が例である。大手ベアリングメーカーの汎用品の定価はなぜか同じで、その再販売価格もなぜか30%に長年統一されていた。
③一物多価の発生
先述しましたが、代理店は多数のユーザー向けの特値を持ち、営業活動をしている。メーカーは大量のラインナップを持ちますが、一般的によく使用される規格、型番が存在する。そのため、特値がユーザー登録によって提供される以上、同じ型番であっても、一つの代理店が複数の仕入価格を持つという矛盾が発生する。
例、ベアリング6200オープン
A社向け特値:80円
B社向け特値:68円
C社向け特値:95円
消費者向け商品など、通常は仕入量に従って、仕入価格は決まる。しかしながら機械部品業界は、ユーザーに対して特値を出すのであって、代理店の購買量によって特値が変化するわけではない。そのため、代理店は同じ型番であっても、複数の仕入価格が存在することになる。
ユーザー側から見れば、取引業者が大きな代理店でも小さな代理店でも、自社の仕入価格に影響を受けにくいため、良い事のように感じるかもしれない。しかしこの特値は経済合理性によって決められた価格ではないため、自社より取引数量の少ないB社の方がより安い価格の提供を受ける可能性がある、というおかしな話となる。
さらに人間心理として、同じ商品であればやはり安く買いたいというインセンティブが働く。そのため代理店も上記の例で言えば、B社向け特値を使って仕入れる量が自然と増える。ユーザー向けの価格とは言え、メーカーもそれほど細かく管理しているわけではないため、実際の使用量よりも多めにB社向け特値を使用し、実際の使用量よりも少なめにC社向け特値を使用することによって、代理店は超過利益を生む余地が存在する。
あるいは他のユーザーからスポットで受注を受けた場合、この特値を使って、建値による仕入価格を適用するよりも高い利益を生み出すことが可能となる。ここで代理店がユーザーに納入する価格は、先述の再販売価格の統制により、決められた一定価格以上になるからである。代理店はユーザー登録をしていないユーザーに対する納入価格を自由に設定できない。
例、6200DDU 300個をスポット価格で販売
通常:売価171円、仕入値148円、売買差益(171-148)×300個=6,900円
特値流用:売価171円、仕入値100円、売買差益(171-100)×300個=21,300円
⇒14,400円の超過利益の発生
これがいわゆる「特値流用」と呼ばれる禁止行為である。メーカーはこの行為を形式的には厳しく禁止していますが、代理店の商売が薄利なこともあり、営業現場では一定程度容認している。特値流用は代理店にとって大切な利益源となっている。これは代理店の利益補填であり、ユーザーに対する利益が直接発生することはない。
④温存されやすい小規模過多の流通構造
通常同一企業が、同じカテゴリー内で競合する2つのメーカーの代理店になることは少ない。そのためメーカー数の多いカテゴリーはそれだけ全体の代理店数を増加させる。ベアリングの場合、1社で50~80社前後の代理店を抱える。NSK、NTN、KOYO、NACHIの4大メーカーの代理店は総計250社以上に及ぶ。
代理店は少数のメーカーと代理店契約を結ぶ。伝動系商社の場合、ベアリング、ベルト、ブッシュ、オイルシール、ギヤ、チェーン、スプロケット、減速機といったカテゴリーにおいて特定の1社の代理店となる場合が多い。従って、代理店が取引先として扱っている部品メーカーの大半は、他の代理店を通じて調達している。
NSKの代理店が、取引をしているユーザーからNTNの製品を指定された場合、NTNの代理店から製品を調達して販売する。このとき、NSKの代理店はNTN製品については二次店になる。このNTN代理店⇒NSK代理店、という流通ルートさえ、通常は固定的である。これは先述した再販売価格統制が大きく影響している。結果として、NSK代理店⇒NTN代理店の流通ルートには競争原理は働かない。
そして卸代理店を中心として、代理店にはさらに商品を卸す、二次店となる商社を顧客として持つ。この代理店⇒二次店⇒ユーザー、の流通ルートがNSKの製品であった場合、他のNSKの代理店がユーザーに直接販売することで競争が促進されるように思える。しかしながら、部品メーカーのユーザー登録があるため、ここに同じメーカーの代理店が参入することは通常あり得ない。二次店とはいえ、流通ルートが固定化されれば、競争制限の恩恵を受けることができる。
小規模過多の流通構造は大きな「無駄」の存在により、存立している。自由競争になれば、あっと言う間に機械部品商社の数は半分になってしまう可能性さえある。本当の営業力、コスト競争力を持つ企業だけが生き延びることができるからである。代理店権や先行者利得といった既得権で生き長らえている商社は、それらを失えば、生き延びることができない。
メーカーは地域密着の代理店に対して、獲得してきたユーザー情報の見返りに特値を提供して支援しつつ、代理店制度の一つの特徴であるユーザー登録を通じて、同一メーカー内の競争を制限して、利益の最大化を図ってきた。図らずも、カテゴリー内において競合メーカーが集まる○○工業会や○○協力会においては、メーカー間の競争さえも制限する業界慣習の温床となっている場合もある。多頻度でFace-to-Faceのコミュニケーションを図りながら、地域密着の営業を行う商社は顧客と深い関係を築いてきた。ここでは一定エリアにおいて、特定少数の商社がしっかりと商圏を握り、新規参入者を許さない文化が育ちやすい。新規参入者がユーザーに見積りをしても、たちまち既存の取引商社がその情報をキャッチし、メーカーの協力の下、その新規参入者を排除するベクトルが働きやすいのである。
このように代理店制度とFace-to-Faceの密着営業が流通構造を固定化し、競争を制限させる作用を促す。そして制限された競争の対価を払っているのは、結局は最終ユーザーなのである。
(3)業態
先に少し述べたが、代理店には二つの形態がある。一つはユーザーに販売する直需志向代理店であり、もう一方は商社に再販売する卸志向代理店である。ユーザーにも商社にも満遍なく販売している代理店は少なく、ほとんどの代理店は二つに区分することができる。
卸志向代理店には全国卸と地方卸があり、営業エリアの広さが異なる。全国卸の代表格はトラスコ中山(工具系)、日伝(伝動系)、山善(機械系)、ダイドー(伝動系)といった会社であり、営業所を全国展開し、多くのメーカーと直接取引し、中堅から大企業クラスの規模を誇る。全国卸の武器は、多数のメーカーの代理店権と過半数のメーカーが採用する再販売価格統制である。全国卸は出来るだけ多くのサテライト店と呼べる二次店を作ることが成功要因であり、多数の営業所を持つことが売上の拡大につながっている。
地方卸は通常、少数のメーカーの代理店権を持つ。通常県内、あるいは周辺県が営業エリアであり、顧客は直需商社や工具商が中心になる。品揃えを専門化して特定メーカーあるいは特定カテゴリーに絞り込み、限定セクションにおいてフルラインで在庫センター的役割を果たす会社もあり、短納期対応により、比較的広範囲の顧客と取引する場合もある。
卸志向代理店同士の競争レベルは低い。これは同一メーカーの代理店間競争の防止、再販売価格統制、卸志向代理店の営業エリアの強弱による商流の固定化などが理由になる。卸志向代理店の脅威は、MonotaROやミスミのVONA、海外勢力のような二次店、三次店の商売を侵食する新興勢力である。新興勢力は、既存の業界慣習や固定化した流通構造に制約されない、あるいはそれらに挑戦的であるため、新しい価値をユーザーに提案するからである。
ところで販売先がユーザーか商社かによって、代理店の営業コストは大きな影響を受ける。機械部品業界はユーザーが圧倒的に強いため、取引先商社は日々の情報収集、短納期対応・当日納品、クレーム対応、商品検索等について人的な接触回数が多くなる。その上、量産部品は利益率が低くなるため、結果として低マージン高コストを招きやすい。故に直需志向代理店は、得意なカテゴリー以外の製品を幅広く販売することで固定費を回収するという方策を選ぶ動機が高まる。しかしながら得意ではないカテゴリーは、そのまま低マージン高コストとなってしまう。このサイクルから抜け出せない上、海外からの低価格流入品に市場を侵食されており、直需志向代理店の経営リスクは高まっている。
一方、卸志向代理店の営業コストはそれに比して低くなる。なぜなら、ユーザーのように頻繁な訪問は不要であり、納期対応やクレーム対応もその交渉力を活かして部品メーカーに丸投げする。規模が比較的大きいため、物流センターやオンライン受発注システムを稼動させることで商物分離を実現し、オペレーション効率を向上できる。直需志向代理店が、オンライン受注や納品書、納品形態をユーザーに合わせる必要があるのとは大きく異なる。卸志向代理店の顧客となる商社は、小規模な会社が多いため、卸がそのシステムを構築すれば、「客が自分のシステムに合わせて」くれるのである。なぜなら小規模な会社の場合、自社の効率的なシステムなど持ち合わせていない場合が多いからである。
直需志向代理店は、地域密着のFace-to-Faceにより、長年の取引実績がある得意客(最終ユーザー)を持っている。しかし通常は少数の部品メーカーの代理店権を持つにとどまる。ユーザーとの結びつきの強さが直需志向代理店の強みであり、円滑な関係により早期に情報を収集し、設計や研究段階から関与して、その取引を継続させている。
これらの直需志向代理店は概ね売上10~50億円の小規模な会社が多い。先述したようにユーザーに主導権を握られるため、薄利な上にマンパワー依存の営業活動となるため、効率が上がりにくいのが現実である。さらに代理店とはいえ、売上規模が小さいためメーカーに対する発言力は強くない。結局、強いユーザーと強い部品メーカーの双方の圧力を受けるため、マージンは極小化に向かう。特定のヘビーユーザーに対しては、全国卸、地方卸とのネットワークを駆使して、量産部品に加えて工具から設備の補修品まで幅広い注文に対応する。
直需志向代理店の脅威は同じカテゴリーの他メーカーの代理店である。営業エリアが当然に重なり、NSK対NTN、バンドー対三ツ星、THK対IKOのような局地戦がある。しかし先述したように一定程度の住み分けが部品メーカー側あるいはユーザー側でなされる場合もあるため、熾烈な競争というレベルはまれである。むしろ直需志向代理店の最大の脅威は既存の商慣習を無視した新興勢力や海外勢である。
卸志向代理店から製品を調達する直需志向の二次店や三次店についても、直需志向代理店と近い性格を持つ。ただしメーカーと直接取引がないため、代理店よりもメーカーに対する交渉力が弱く、メーカーの協力度も弱くなりやすい。しかしながら、特定ユーザーについて、代理店を通じて部品メーカーの特値の提供を受けている場合、言い換えれば該当二次店、三次店によって部品メーカーにユーザー登録がなされた場合、このユーザーに対して、該当メーカーの製品については固定的な流通ルートを持つことが可能となる。
この商慣習があるため、二次店といえども安定的売上基盤を築く会社も多い。ただしユーザーから見れば、メーカー⇒卸志向代理店⇒二次店⇒ユーザー、と少なくとも二社以上の商社が入るため、流通コストが加算されることで購入価格は高くなりやすい。さらに自社が部品メーカーにユーザー登録されている場合、他の代理店や二次店から調達することで、当該メーカー製品の調達コストを下げることが困難となる。